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  • 執筆者の写真小町もなか

J庭新刊情報


タイトル/『王宮という名の鳥籠の中で』(R18)

ページ数/P260 A6(文庫サイズ)

価格/1000円

J-GARDEN41  10月2日(日)初売りとなります。

スペース→ う14a (4F 学ランの間)

【あらすじ】

生まれた時から軟禁生活をしている石油の国アラブのラジェール王国王宮内には、人知れずひっそりと暮らしている幻の第六王子サーフィスがいた。 アラブ人特有の浅黒い肌、黒々とした濃い体毛。そのすべてが王子には欠落していた。それは…… パリコレ真っ最中のトップモデルのロラン。ゴシップ記事をいつも賑わす常連。 しかも噂になる相手は圧倒的に男性が多いという、性に奔放な男。 そんな二人がいったいどのようにして出会い、そして恋に落ちるのか……

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「だ、大丈夫。この人が助けてくれたから」

 今度こそ、子供もとい少年と向き合う。

「あ、ありがとうございます」

 といいつつ、ロランを見て少年はポカーンと口を開けている。ロランの美貌に対する、よくある反応だ。しかし、ここまで顕著なのも珍しい。

肌が白過ぎるため、顔が赤く染まっていくのがとてもよくわかる。隠せない反応、というのは素直に気持ちの良いものだ、と初めて知る。口ではなんと言おうと、体の細胞は嘘をつけない、といったところか。

「いや、怪我がなくてよかったな。君のパンは重症のようだが」

 ロランの一言で、今しがたの惨劇を思い出したのだろう、急に表情が暗くなった。

「は、初めて店で買い物をしたパンなので、従弟たちにも食べさせようと……」

 その先を言う前に、よほど悲しかったのか、みるみるまに目尻に水が溜まっていく。

散乱したパンはすでにホテルスタッフによって片付けられてしまったようだ。

 もともと目が赤いせいで、瞳は充血して泣きはらしたように見える。なんとも哀れを誘う瞳である。

「どこで買ったんだ?」

 まさか、返事が来るとは思っていなかったのか、驚きの表情を見せながら玄関の外を指差す。そういえば、正面玄関の通りを挟んで向かいにパン屋があったな、とロランは頷いて、そして少年の背に手を当てて、外へと促す。

「じゃあ、また買いに行けばいい。ほら一緒に行こう。直ぐそこだし」

 するとすぐそばにいたスーツの男が慌てて後を追う。

「坊ちゃまを勝手に連れ出さないでください!」

 執事なのだろうか、こちらはどうみても浅黒い肌に彫りの深い、中東の顔つきをしている。

そんなに慌てるほどの距離でもないんだがな、と思いながらもここが一流ホテルであることを思い出したロランは、きっとどこぞの金持ちの息子なのだろう。

「すぐそこのパン屋へ行くだけだから、君もついてくればいい」

 と言い捨て、少年の背から肩に手を移動させて抱きこむようにして前を歩かせる。少年は執事を見つつ、戸惑いながらゆっくりと足をパン屋へと進めていく。

「大丈夫。ただ、一緒にパンを買うだけだよ」

 極上の笑みを少年に向けると、ポッと赤くなって頷く。この素直な反応が、小動物みたいでとてもかわいい、抱きしめてみたい、と思ったのは内緒だが。

サーフィスは、隣で並んで歩いている男性を、フードの隙間からチラチラと何度も見返していた。

 ――この世にこんなかっこよくて、美しい男性っているんだね。

 身近に家族と侍従しか接してこなかったサーフィスは、隣にいる男性が物珍しくてしかたがないのだ。

 ものすごく長身で、コートを着ていてもスタイル抜群だろうとわかるバランスのよい体躯。ハニーブロンドの髪はゴージャスだし、サングラスで隠れているので残念ながら瞳の色はわからないが、絶対に素敵な色をしているに違いない。比類なき美貌というのは見るだけで赤面してしまうのだなと初めて知った。

 ――なんてかっこいいんだろう。俳優さんとかかな? うん、きっとそうだよ! こんなにかっこいいんじゃ、周りがほっておかないよね!

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「あの……出て行ってもらえますか。もう寝るので」

自分の未熟さが悲しくて、泣きそうになるのを堪えてこれ以上惨めな気持ちになりたくないから、勇気を振り絞ってその一言を発したというのに、ロランは少しムッとしたように上半身を起こして、こちらににじり寄ってくる。

後ろがベッドヘットなので、これ以上逃げ場がない。

「あらら? 気分悪くなっちゃったのかな? というより気分を害しちゃったってほうが正解かな? 子猫ちゃん」

 にゃあ、と鳴いて口角をキュッとつりあげ、さらに近寄ってくるので、

「いやっ! あっちへ行って!」

 目を瞑って手足をバタバタさせて、何を言われているのか、恐怖の対象となってしまったロランを追い出すことしか頭にない。

「お願い、あっちへ行って!」

 何が怖いのか、それすらもすでにわからなくなっているサーフィスは、最後の手段とばかりに薄い上掛けを頭から被ってベッドに丸くなってうずくまる。

「何にもしてないぞ、どうした?」

 薄い布一枚隔てたロランの声が、直接耳にも届く。市場にいるときにとてもやさしく、頼りになる素敵な友人ロランと同じ声をしている。

「さあ、顔を出して……」

しかし、すぐに危険を孕む、なにか官能的とさえ思える声を発しているロランに、上掛けの中で耳を塞ぐしか防ぎ様がない。

「お、おねがい、許して!」

「おや? 何か悪い事でもしたのかな? だったら、悪い子にはお仕置きをしないとだめかもしれないね?」

 そういい終わる前に、ロランが小さくうずくまっている塊の上に、跨ぐように圧し掛かってくる。

 ――いやだ、怖い!

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